そういう繰り返しの毎日に慣れきっちまった頃ですかね。ある日、あたしがいつものように糞みて えな行列に並んでいますとね、突然うしろが騒がしくやり出した。それが、なにか尋常でない騒ぎだ もんで、まわりに無関心を決め込んでいたあたしも何事かと思って振り返ってみました。そうすると、 どうだろ、帽子かむった軍服姿の奴らがうしろの行列に手を出しながら、なんでしょうねえ、一等目 立つ襟とかきっちりした奴がこっちに歩いてくるんです。あたしゃ、こりゃ手入れに違いねえと思い ましたよ。遠くの方には例のトラックが見えましたし、奴ら、警棒なんか持って叩いてるんですから ね。 あたしが見てる前で軍人たちの頭みてえな奴は、先の方の給仕に詰め寄っていきました。そして何 だか話しているような声が聞こえたかと思ったら、いきなり大声をだしやがった。そうすると、どこ からともなくわらわらと下っ端が集まってきて乱暴に、ホントねそりゃ乱暴でしたよ、行列に殺到し たんですよ。もちろん、あたしらをしょっ引くためにですよ。問答無用に手首をねじ上げられてね、 痛いってだけ覚えてるだけで、なんだかわからないうちに、気づいたときにはトラックの荷台に詰め 込まれてた有様ってわけでさ。 それでね、少したってあたしはおかしなことに気づいたんです。 いつもは警察くずれがやるはずのところを、なんで軍隊なんかが出張ってきたのかってね。あたし にしては、よく気づいたと思うでしょ。まあ、長年でもないが、しばらくあの暮らしに浸かっていた 身分としてはね、妙にそういうところに目が利くようになっちまうもんで。 ……そそ、それでね、それが何でかっていうと、どうも時流が進んだみてえで、取り締まりが軍隊に 持ち越されて、厳しくなったんだと。なんでも、国民の団結を促進するために、社会的に不要な存在 は徹底的に排除する、ということだったんだそうです。ま、言っちゃ何だが、そりゃ横暴ってもんで すよ。だって、そうでしょうが。長々並んどいて朝飯も食えなかったんだからからね。 ま、いいわな。食べもんの恨みは恐ろしいってことは過ぎたこととして忘れましょうや。それから というもの、あの時の粥を喰いそびれたことを十分悔やんだんですから。それに、いまとなっちゃ、 食いっぱぐれることはないし、みみっちいことですわ。 |