どこまで話しましたかね。


 ……ああ、そうそう、トラックで運ばれたところまでね。
 そうね、あんたもわかるでしょ、獲物を満載したトラックがどこへ行くのかってことが。もちろん
『官憲の下』ってことだね。ま、でも少し違うかな。最後にシメられるのは同じだがね、その頃はち
ょっと違った。どちらかというと、ブタ箱か……いや違うな、保健所が妥当だろうな。その辺の野良
を狩って、不要な奴から処分しちまうんだから。……いいねえ、あたしにしちゃ良いたとえだわ。
 戦争の始まる前だったから、そのあとあった草むしりみてえな何のためにもならない、ゴミ箱にぶ
ち込むような狩りじゃなかったんだよ、あたしの時には。なんていうかね、最終的にボロはやっぱり
ボロとしてお払い箱なんだが、まだ使えるもんは雑巾がわりに汚れを拭き取る役目を仰せつかったん
だな。まあね、あの頃は社会の底辺のものなんざ、上の垂れ流した糞をきれいにする、ぐらいしか役
に立たないと思われてたんだよ。……まあ、それでも、まだいい方だったか。糞をありがたがってた
方が、処分されるよりはましでしたからね。あたしも、いまここにいるからわかるでしょうが、なん
とか崖っぷちの一歩手前で命は取り留めた一人で、まだガキや老いぼれみたいに仕事がロクにできな
い身分じゃなかったし、喰いもん喰えばまだまだ働ける歳でしたからね、『ちょっとこっちへ』なん
て呼ばれて雑用を命じられたわけです。

 ああ、でもね、糞をありがたがる、っていうのは、なにもたとえじゃくて、本当に誰だかわからな
い奴が垂れたものの後始末だとか、何だかわからない汚らしいものの処分を仰せつかったわけでね。
最初は大変でしたよ。臭いわ、手は荒れるはでね。それが際限なしとくりゃ、逃げ出したくなること
も何度とあった。だけども、そこで逃げ出したら命はねえ。死にもの狂いでやりましたよ。そのおか
げで、二度目の頭の麻痺より先に、鼻がいかれて、手はこの通り、洗っても洗っても黒ずんだ汚れが
取れなくなった」