ある晩、坊主は娘に隠れて横恋慕の相手とよろしくやろうと、連れだって馬屋に入っていった。月 のない晩でね、あたりはまっ暗で、二人がそこにいるなんて誰一人知るもんなんかいないはずだった んです。でもね、なぜか知らねえが、あの娘だけは以前から坊主が他の女に手え出していることを勘 ぐっていて、その晩に二人が歩いているのを見かけていたらしいんだ。それで、あとを付けてって、 夜目でもわかったのか馬屋に入っていったのを物陰からかしっかりと見ていた。あの娘も色恋に溺れ るほどなんだ、二人して入っていって、そのあと何があるか予想はついていたんだな、すぐに飛び出 していった。小屋の入口に引っ付いていた戸を引っ剥がすようにぶち開けると、暗闇から見ていたあ の娘には、中の様子が手に取るようにわかった。あとのことを考えると、おそらく中では事の真っ最 中だったんだろうね、そこからだいぶ離れたところにいたあたしにも、夜のとばりを切り裂くような 悲鳴が聞こえましたよ。 しばらくして、目を腫らして帰ってきたあの娘の右手には、昼の野良仕事で誰かが置き忘れたもの を拾ったのか、麦刈り鎌が握られてあった。それを見て、母ちゃんともども心臓が飛び出るぐらいび っくりしたね。だって、鎌には赤い血がべっとり付いていたんだから。 でも、あの娘に問いただす暇はなかった。あたしらが呆気にとられているのを見てとったのか、急 に憑かれたように駆け出して階段を上がるなり、二階の自分の部屋へ飛び込んでいっちまった。母ち ゃんが恐る恐る様子を見に行くと、あん娘はベッドに座って、今にも自分の喉を突き刺そうとして両 手で血の付いた鎌を持っているじゃないか。すぐに母ちゃんは飛びついて、鎌を取り上げたけど、娘 は大泣きをし始めた。それはとてつもない、泣き声だったよ。ほんと、この世のものとも思えないほ どのね。あたしは、これはただごとじゃないと思って、すぐに二階に上がろうとしました。でも、そ の時、あの娘が入ってきた戸口の前に、妙なものが落ちているのが目に止まった。あたしが、なんだ ろうと近寄ってみると、まあ肉屋に並べってあるレバーがあるでしょう、あれの切れ端か、そうね、 海のナマコの干からびたやつみたいな、どす黒い血だか肉だかよくわからない塊が道の真ん中にぽっ つりあるんでさ。あたしはそん時、気が動転していて、夜だから暗かったからよくわからなかったけ ど、あとで聞いたところによると、それはあの娘が切り取った坊主の逸物だったんだそうですよ。 それからのことは色々ありすぎたんでね、いまいちよくは覚えとらんです。坊主は体を何ヵ所か刺 された上に大切なものまで無くしたけど、なんとか命は取り留めましたが、体も精も文字通り不虞に なって、二目と見られなくなっちまった。娘は娘で、いよいよ頭がおかしくなって譫言吐くは、自殺 しようとするはで、あたしら夫婦には養うことが限界になっちまって、結局、修道院に送るしか手が なかった。 |