かと思われた、その時でした。



 路地の上、ビルとビルとの間をなにかがかすめました。


 爆弾。

 大王。

 そして、そのなにかが一直線にならんだのです。


 ほんの数秒のことでした。
「馬鹿者がぁ!」
 大王は気づいていました。
「けぇーい!!」
 爆弾の位置を見さだめると、気合一発、裏拳をたたき込んだのです。
 ふつうなら、それだけで爆発するはずです。
 しかし、下のほうに当たったためか、爆弾はちょうどホームランのように空へと飛んでいきました。
「うぎゃっ!」
 ヒキガエルをつぶしたような声がきこえたかと思ったとたん、爆発音がひびきました。
 みるまに、花ひらいたけむりの中からなにかが飛び出てきました。いえ、落ちてきたといったほう
がよいでしょうか。
「なんじゃ、また下衆がかかりおったか?」
 と、大王の頭にコツンと当たるものが。
 あわや、完熟した頭にキズがつくところでしたが、大王はしぶい顔をつくりながら、それほど気に
した様子もなく頭をさすります。
「うぎゃgy!」
 それと同じくして、もう一度ヒキガエルの声が聞こえました。
 しかし、今度は二匹分でした。
 下でつぶされた爆弾男はすでに気をうしなって、上にかぶさった見るからに怪しげな黒服の男も全
身焼けこげて気をうしなっていました。
「大王様、ご無事ですか?」
 ナス大臣が清潔タオルをとりだして、すぐに飛びでてきます。
「うむ」
 頭のよごれをふきふきされながらも、大王はむずかしい顔です。
「……しかし、今宵はちとおかしな夜じゃ。天は余を憐れんでおるのか、さらなる試練を与えようと
しておるのか、わからんようになった」
 大王が大臣にも見えるようにこぶしを開くと、てのひらには燃えるような赤い石があったのでした。