「赤い。余のように。まさに、余のために降り出でた石か」 てのひらの石を親指と人差し指でつまみ上げて、大王はじっくりと眺めてみました。 すきとおっていながら、あまりにも色がこいために向こうがわが見えません。中心はもやもやとに ごっていて、キレイでありながら不気味さもかんじさせます。 人々がほしがるのも無理ありません。これほどのかがやきは、他にはないでしょう。 大王もしばらくその光のうずを目にうつしていました。 しかし、にわかに薄気味悪い微笑みをうかべるのです。 それは笑顔というより、どこか見下すような表情でした。 「……だが、余に華などいらぬ」 そして、おもむろに石を放りなげようとするのです。 それがよかったのか、わるかったのか。 赤い石が、夜の明かりにてらされて、ぴかっと光りました。 秘められた魔力がさわぎはじめたのです。 すると、どうしたことでしょう、大王のふりあげたこぶしの先で、石がうちに秘めた真っ赤な光を あふれさせはじめるではありませんか。 大王はおどろいてうでをおろして、手をひらいてみました。 そこにあったのは、まぎれもなく一つの石でした。 しかし、先ほどまでの、赤くあやしくかがやいていた石は消えていました。 かわりにあったのは、砂が長い年月をかけてかたまった、とるにたらない砂礫石だったのです。 はっきりと表情にはあらわれませんでしたが、大王はこれに大変な興味をひかれた様子でした。変 わり果てた石を見て、そして、ふとあることに気づきました。 「大臣。貴様、読めるか?」 彼は大臣に石を見せました。 大臣は鼻メガネをとりだすと、小さな石をじっとにらみつけにかかります。 石にはこれまた小さなキズがならんでいました。それは、さきほどまでのクリムゾン・ダイヤには 見られなかったものです。 「おお、これはシュター文字のようでございますな」 「シュター文字、とな?」 「はい。現在ではすでに死に絶えたはずの神聖文字でございます。……たしか、東方の砂漠の国、タ ンディールでそのむかし使われていたはずでございます」 「なんと読む?」 「直訳するとこうなりますな。……『迷宮』……ですか。それと……『暴神』……『覇するもの』」 すると、それを聞いた大王は、実に愉快そうな笑みを浮かべました。目を見ひらくと、笑いをおし ころすように、まじまじと砂礫石をながめるのです。 「……なるほど……なるほど。おもしろいではないか。国あらば、覇者ありという。……その覇者を 覇するのが我こそ、タンディールという国にも一片の覇者はいるであろう。余を愉しませてくれるよ うなな」 残酷な笑いを顔いっぱいに浮かべる大王は、これからのことに期待で胸がいっぱいになりました。 それがわかったのでしょうか。 そのとき、石にきざまれた文字が、かすかに光ったように見えました。 |