「他愛もない。……大臣よ、このような下衆どもすでに喰い飽きたのだ。余は真の強者を望んでおる。
……貴様、よもや間違っていたなどとは申すまいな?」

 ここは町のはずれにある路地裏。
 トマト大王のまわりには叩きのめされた数十人の男たちが、まるで彼をの通り道のようにたおれて
いました。そして、その終わりにいる大王の手には、彼の体よりもはるかに大きい男が虫の息で持ち
あげられているのでした。
「こやつもそこらの下衆と変わらぬ悪漢。信念もなく、望みもなく、己の力をいかに使うかも心得ぬ……」
 そう言うなり、大王は男を高く持ちあげて、
「ならば、朽ち果てるが運命」
 空に向かって放りなげたのでした。
 男はいったん真上に飛んでいき、今度は重さで落ちてきます。
 そして、男の大きな影が大王の全身をつつんだ、その時でした。
 大王がこぶしが素早く放ちます。
 とたんに、男の体はもんどりうって、地面に吹っ飛ばされていきました。
 しかし、男はなぜかすぐに立ち上がります。が、様子がおかしいのです。虫の息だったはずなのに、
恐ろしさにどうしようもできないといった顔つきで、言葉にならない叫び声を上げはじめたのです。


「も、もも、だめ、めめぇ、も…も…もけーれむべんべ!」


 というが早いか、男の体はキリのように飛び散ってしまいました。
 あとには地面に丸く赤い液体がぬりたくられたように残っているのみでした。
「我が技をふるうことさえ、はばかられる。手遊びにしかならぬわ」
 これで彼に刃向かうものはいなくなりました。 
  残念でなんだか怒りがわき起こりってきますが、しかたがありません。
 大王はふりかえって、そばの大臣を呼ぶと、立ち去ろうとしました。
 しかし、そのうしろ。
 彼のいう「ゲス」の一人がまだ生きていたのです。
「う……チクショウ」
 男はあらい息づかいの中、大王のうしろ姿を見つけました。そして、最後の力をふりしぼって、あ
ろうことか、ポケットからまだ使っていなかった爆弾をおもいきり投げつけたのです。
 トマトジュースのできあがり……!