ある町でのことでした。
 まわりの町の博物館や美術館である怪盗がつぎつぎと貴重な宝石を盗みだすという事件が起こって
いいたころです。
 その町の博物館には秘蔵のクリムゾン・ダイヤと呼ばれる真っ赤な血のようなダイヤがおさめられ
ていました。それは世界におそらくたった一つのとても珍しいダイヤでした。人々はこぞってダイヤ
をほしがりました。ルビーと見まがうような赤いダイヤ。それは、手から手へとわたり、いままた別
の手へとわたろうとしていました。



 夜。


 怪盗は博物館の特別展示室にもうけられたクリムゾン・ダイヤのケースの真下にいました。
 そこは彼の予告状のせいで特別展示室や博物館のまわりがしっかりと見はられているのにくらべて、
明かりは消され、人気がありません。
 怪盗はケースの真下の天井に穴を開けはじめました。
 それが終わると、今度は細長いマジックハンドをとりだします。
 つまり、穴からマジックハンドを入れて、上のケースからダイヤを持ち去ろうというのです。
 警備員が気づいたときには、すでにダイヤはニセモノとすりかえられて、怪盗はまんまと夜の町へ
と消えたあとでした。