砂を運んで、凍えるような北風が吹いています。

 巨大な波のような砂丘がどこまでもつづき、地平線の上までうめつくしています。

 海の波は船を運んでくれます。しかし砂漠の波は旅人をはばみ、動かない山のようです。

 太陽にはうすく雲がかかり、ずいぶんと暑さはやわらいでいました。しかし、それでも汗をかかず
にはいられません。いいえ、流れでる汗もカラカラにかわいた空気のせいですぐに消えてなくなり、
ただひたすらに暑いのです。



 そのまっただ中を、さびしい人影がとぼとぼと歩いているのはいつからだったでしょうか。

 頭にはしずくのあとがいくつもはり付き、服は砂に吹かれたり太陽に焼かれたりしてボロボロです。
足もとも心なしかたどたどしく、息は荒くはげしいものでした。

 しかし、この人は砂漠にまよう他の旅人とは少しちがっていました。

 なぜなら、彼の目はまるで空の太陽のようにかがやき  その顔も赤くかがやいていたのです。
「太陽王といわれた我が祖先も、よもやその子孫が太陽に蝕まれているとは思ってもいなかったであ
ろうな」
 彼は薄気味悪くほほえむと、
「だが、余の力は天にあり! それ、すなわち千星・太極星、すべてを内包する蒼天である。太陽ご
ときは余の一部にすぎぬ! ……ならば、余を蝕むは己自身!」
 彼はおもむろに右手のこぶしを突き出すと、一息に自分のむねめがけて突きさしました。
 いつのまにか、こぶしは金色に光り、突きささったところからは光がふきだすように、こぶしをつ
つんでいました。
「ぬく……」
 いたさに顔をゆがめながらも、彼はこぶしをひきぬきました。
 あとには、まだかすかに金色に光るくぼみがのこされていましたが、じきに消えていきました。
「まだ弱さが残っている」
 彼はまたとぼとぼと砂の波間へ歩き出しました。