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「お母さーん。どうしてボクたち、白黒模様なの?」
「それはね、私たちがよい心とわるい心をもっているからなのよ。気をつけて、坊や。もし悪いこと
をすると、すぐに黒い模様が大きくなるからね」
「ふーん。……うん! わかった!」
「いい子ね。ほら、おいしい干し草よ」
「わぁい!」
子どもはお母さんからもらった好物に飛びつきました。そして本当においしそうにムシャムシャと
食べました。
「でも、お母さん。……もしも善いことをしたら、白いのも大きくなるの?」
お母さんは子どもの顔をのぞきました。
その顔は困ったような悲しような表情をしていました。子どもは不思議そうにお母さんの顔を見つ
めていましたが、やがてお母さんが子どもの前にゆっくりと座ると、なにかとてもイヤな感じがしま
した。
「坊や。よくお聞き。いままで坊やには言っていなかったのだけれど、それはね……」
と、その時でした。
ガシャンと大きな音をたてて、うしろの窓が割れたのです。そして、一緒になにか黒いかたまりが
お母さんに飛びついたのでした。お母さんは悲鳴をあげる間もなく、黒いかたまりに押しつぶされる
ように、その場にぐったりと倒れこみました。子どもは突然のことに、なにが起こったのかもわから
ず、ただぼうっと立っているしかありませんでした。
お母さんの体にかぶさった黒いかたまりが、かすかに動いたかと思うと突然むっくりと起きあがり
ました。
天井にとどきそうな大きさです。
そして、ゆっくりと子どものほうへ近づいてきます。
子どもには、まるで黒いおばけが自分をさらいに来たように思われました。子どもはとてもとても
恐ろしくなりました。そして大きな声でなきだしました。
なにかが見えました。
大きな二つの目です。黒いかたまりの上にてらてらとした二つの大きな目がこちらを見つめている
のです。
そしてその下に真っ赤に裂けた大きな口が見えました。おそろしい口が子どもを食べようとするよ
うにぱっくりと開いていました。
「お前がオックスの児か。……なるほど、威勢のいい泣き声だ」
黒いかたまりが手をのばしてきました。
子どもには、そのときはっきりとわかりました。
これは大きな牛だ。わるいことをすると、こうなってしまうんだ。
◇
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