「……もう、疲れたよ。このくらいにしてもらっていいかい?
あんたには礼を云わなくちゃならないな。こんな老いぼれの話を黙って聴いてくれたんだから。
あたしにとっちゃ、そうだな、結構楽しかったよ。処刑台に乗るときとは違って、おもしろかった
よ。心が安まるような、
……はは、そうだな、まさに心構え、になるのかな。
……それが幸せだって?
だったらそりゃ、陳腐でちっぽけな幸せだな。
幸せってのは、こんな部屋じゃなくて、豪勢な家の、ふかふかのベットの上で感じるものだろう?
……そりゃ、あたしだって、幸せなときはあったよ。……昔はね。
でも、ま、最後に云うけど、『保健所』の中でも幸せじゃないが、嬉しいことはあったよ。
……縄縛りじゃない、他のことだよ。
莫迦なことだって笑わないでくれよ。
あたしは、あの時……そう、あの女が殺されようとしているとき、とても嬉しかったんだ。
別に殺されるのが嬉しかったんじゃない。
あたしはあいつの顔を見て、そうしてあいつがあたしを押し倒すように暴れて、あたしを噛み殺さ
んばかりにギラついた瞳を向けてきて、よくわかったんだ。
あのじゃじゃ馬は、結局、いつまでたっても、あの頃と同じクソ生意気なじゃじゃ馬だったってこ
とさ……」
右の者は聴取より三日後、午前十時三十二分、同所内にて刑を執行……
方式は絞首刑とのこと……
なお、当報告は承認の上、速やかに外部への持ち出し・閲覧を禁じ、永年保管されることを望むも
のである……
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