「……雪が降り積もった日のことだ。



 その日は処刑のある日だった。
 もちろん、あたしは前の日に熱心に縄の準備をしていた。でも、それはいつもと同じ、たいしたこ
とじゃなかった。
 でもね、翌日、あたしは処刑台にやってきて驚いた。

 ……処刑台が死ぬほど白く輝いていた。

 あんたはわからないだろうけどね、それはあたしにも始めてのことだったんだよ。
 処刑台は別に白い木でできているわけじゃない。囚人たちが頻繁に上がるし、野晒しだ。汚れでむ
しろ黒ずんで見えるほどだったんだ。それに、処刑台のある広場は屍体置き場と焼却炉のある建物の
影になってたから、年中陽が差さないで、それのせいで地面はジメジメしてた。あたしが顔を出した
時間だって、いつものことなら朝方だってのに、まだ夜みてえに薄暗いはずなんだ。処刑台だって、
汚らしくガラクタみたいに突っ立ってるだけだ。


 ……なのに、おかしいんだよ。なにか、この世のものじゃないみたいに白いんだ。誰もいないし、
何もない。それがぽつんと置かれてるだけなのに、まるでね、『保健所』に覆い被さる泥みてえな雲
の上の、そのまた上にあるところから落ちてきたような、そんな、莫迦みたいに白く輝いてるんだ。
キラキラ光ってさ。

 ……雪の白さが映ったって?
 たしかにそうかもしれんね。いま考えると。
 でも、それだけじゃない、なにか妙な光景だったんだよ。
 何かの見間違いかと思ったさ。寝ぼけてるんだと、目を擦ってもみた。目をつむって、次に開けた
ときには、もう消えてなくなっちまうんじゃないかって、そんなことも考えた。
 だけど、あたしの目の前で、それは暗い影の中に浮かんで、いまにもかき消えちゃうんじゃないか
と思わせはするけど、いつまでも輝いていたんだ。あたしが堪えられなくなって、後ずさりして建物
の中に入るまで、まるであたしに見せつけるように、それは途切れることがなかった。

 何だったんだろうね、ありゃ。
 いまも、ときどき不意に思いだすことがあるよ。
 ありゃ、一体、何だったんだろうってね。