だけど、死ぬ前にどう足掻こうと、下の台がガタンとなったらみんな同じだ。声は出ないで顔は赤 くなる、それから真っ白になって舌を出して終わりさ。そうして、死にきるまで長い時は一〇分もほ ったらかしにされる。 蓑虫みたいにぶら下がって風に揺れるんだ。 ぶらーんぶらーんてね。 みんな一緒になって、頭並べてさ。 ぶらーん、ぶらーんてね。 ……面白かったねえ。 死ぬ前はあんなに好き勝手にやってた奴らが、死んだらみんなして同じ方向に揺れてるんだよ。 もう顔は冷たくなって、手も足も伸びきってるのにだよ、みんな踊ってるんだよ。 楽しそうに。 本当に楽しそうにさ。 あたしはそれを見たいために、刑務官の視線にも耐えられた。あの風で踊る屍体を見られるなら、 つまらない縄縛りなんて苦でも何でもなかった。……そう、苦じゃなかった。むしろ楽しかったね。 しっかり用意すれば、屍体も気持ちよく踊ってくれるはずだって思いこんでたんだ。そうなるように ……そうしなければと次第に思ってくると、なんだかね、縄を縛るっていうあたしの仕事に妙な責務 を感じ始めたんだ。輪っかの大きさは適当か、台から輪っかまでは適当かなんてね。処刑の前日につ くるんだけど、夕方の風向きとか風の強さから『明日はいい風が吹くかな』なんて思っちまう始末だ った。 気になり出すと止めどもないものでね、ひとつ屍体の揺れ方が不揃いだったりすると、次は縄の縛 り方とか伸ばし方をこうしよう、ってな具合に試行錯誤する。そうすると、今度はうまくいって、綺 麗に踊ってくれたりする。 そういう日は、あたしはとっても満足して寝れるんだ。 夢の中に、踊る屍体を見るのは一度じゃなかったね。 本当に楽しかった、あの時は。 もしかしたら、それまでの人生の中で、一番楽しかった時かもしれんね。 そう…… 母ちゃんと結婚したときよりも、 子どもが生まれたときよりも、 ……楽しかったかもしれんね」 |