「リスくんたちが!?」
 王国の中心にそびえる高い尖塔をそなえた王宮の最深部、玉座の間に甲高い声が響きました。
 アヒルはその声を聞くなりビクリと体を震わせ、ひざまずきました。玉座に座るこの国の支配
者・ネズミは激昂して立ち上がったものの、拳を振るえ顔は青ざめていました。
「誰! 誰がリスくんたちを!」
「赤ら顔の貴族風の男と顔色の悪い従者、らしい」
 アヒルは極度のだみ声で恐怖に引きつって、やっと何を云っているかわかるぐらいでした。
「赤ら顔の男……?」
「植生人、では、ないか、と」
 ネズミは表情を強張らせて宙を睨みました。
「植生人……まさか」
「もしかして、知っているの?」
「トマト大王……」
 その言葉が意味することをアヒルは即座に理解しました。野菜人の中でも、特に強硬姿勢をとるあ
の豪胆王のことです。
 二人はこれ以上ない恐慌に息を呑みました。
「ど、どうする?」
 ネズミは緊張しきった表情でしばらく思い悩んだ挙げ句、しぼり出すように云いました。
「……みんなに云って! あの人から、なんとしてもこの国を守るんだ! そう、なんとしても!」

 しかしその時には事態はもう取り返しのできないところまで陥っていました。
 ネズミ側の抵抗も虚しく、彼の仲間たちは次々と、連続殺人事件、トマト大王の前に倒されていっ
たのでした。
 大勢で一斉に飛びかかれば勝てると早計した七人のこびとたちは、目にも止まらぬ速さの手刀によ
る乱れ打ちによって切り刻まれて、危うく中の人が出そうになるのをこらえながら、倒れました。
 黄色ベアーの最後は悲惨でした。彼は王国随一の力持ちでしたが、腹が出ていたため動きに精彩を
欠きました。大王の一瞬の動きについていけず、秘孔・風心をつかれました。この秘孔は相手の体を
風船のようにふくれさせてしまうのです。黄色ベアーは突き出た腹をさらに巨大に膨張させて、空へ
飛んでいきました。そして仲間たちの見ている目の前で血肉をまき散らしながら木っ端微塵に破裂し
てしまいました。
 これに逆上した狗男はダイナマイトを無数に体にくくりつけて自爆特攻を挑みます。しかし、これ
さえも大王はこともなげに腕を振るうと、狗男は空の彼方へ飛んでいき、黄色べーのあとを追いました。
 大王の進撃は止まらず、ネズミたちの逃げのびた先、王国の最奧にある彼の家まで迫りつつありました。

「だめだ、もうそこまで……。ネズミだけでも……」
 駆け込んできたアヒルは悲痛な声が嘆きました。
「ボクがみんなを捨てて逃げることができるわけないじゃないか! なんとか……なんとか……」
 しかし、その時でした。
 入り口の扉が最後の審判のように轟音をあげながら開かれて、トマト大王が現れたのです。
「ここに居ったか。探したぞ」
 その鬼気迫る姿に怯えながらも、アヒルはネズミを守るように行く手をふさぎました。
「ネズミだけは何としてもこのボクが!」
 アヒルは大王に向かって駆け出しました。
 そして口に含んでいた水を勢いよく吐きかけたのです。
「くぬ、小癪な」
 大王が一瞬、視界をさえぎられてたじろぎました。
そこにすかさずアヒルは体当たりをかまします。二人はもみ合い、もんどり打って、その拍子に開い
ていた扉のむこうに消えていきました。