1 雨だれが土突き、夕立が朦々と煙る。 縁台に座っていると、遠くの空で何かが光ったような気がした。 雷だと思った。 ふと、軒に切られた曇天を見上げると、雷鳴が轟いた。身にずしりと響くようだった。 たちどころに身の置き場所に困った。不安、といってもよいかもしれない。 しかし、反面では神妙とした己もいる。雨に乱れる庭を目の前にして座っていると、ますますおか しなことに思えてくる。 傍らの太刀を執ることもない。迷いあらば、雨に打たれて、ただ揮うこともよいだろう。だが、そ うする所為もない。心は澄んでいる。 とすれば、この居心地の悪さは何かと思案する。 言い渡された勅命が直接の所以ではないだろう。よりも、呼び覚まされたかつてのことだ。 やはりあれなのだ。 処する吐息を一つすると、太刀に手をのせた。 黒塗り鞘を指腹で撫でると心がいくらか落ち着くのがわかった。 |