ある日のことです。トマト大王は玉座に座っていました。
「よい天気。よい日和」
その時でした。
どこからともなく風が吹いてきて、トマト大王の顔が胴体からポロリと落ちてしまいました。
コ ロ コ ロ コ ロ コ ロ
顔は赤絨毯を転がっていきます。
「ほう。赤に赤とはなんとも風流……」
トマト大王はそう言うと、うなずきました。
しかし、トマト大王はそこできづきました。
顔がないと困ります。
目も見えなければ、なにも聞こえません。
それになにも食べられません。
なにも食べないとお腹がすきます。
お腹がすくと死んでしまいます。
死んでしまえば王様ではなくなってしまいます。
これは一大事。トマト大王は立ち上がると、顔を追いかけ始めました。
しかし、どうしたことか目の前がまっ暗です。どこにも自分の顔がみえません。
それどころか、まわりの壁や赤絨毯もみえません。
それも当然。
トマト大王の顔が下を向いてとまっているので、目がふさがってしまったのです。
「むう。我が両目をふさぐとは、なにものの仕業じゃ!」
しかし返事はありません。
「答えぬか。……そうか、では手打ちにしてくれるわ!」
トマト大王は走り出しました。
しかし、むやみやたらに走っているので、あっちにゴツン、こっちにドテン、そっちにバタンと、
とても顔にたどりつきそうもありません。
トマト大王は顔をもとめて、
ぐ る ぐ る ぐ る ぐ る
かけまわります。
「むむ。面妖な技を使いよって」
トマト大王は、とうとう疲れてしまいました。
と、そのときです。トマト大王の足になにかが当たりました。
「むっ! 曲者!」
トマト大王は思わず蹴り飛ばしてしまいました。
ぽぉーん
突然、目のまえが明るくなるのがみえました。
しかし次の瞬間、今度は目のまえが赤くかわりました。まるで水をかけられたように目のまえを赤
いものが落ちてゆくのでした。
トマト大王の顔は蹴られて、窓の外にむかって、庭の噴水の真ん中にあるトマト大王の像の剣にブ
スリと突きささっていたのでした。
日の光にてらされた顔はとてもきれいに輝いていました。
「ほう。太陽に赤き液汁とはなんとも風流……」
おしまい
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